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「先代がぽつくり死にましてね。おかげでこんな所へ引つこむやうになつてしまつたんですが」
徳次は身体中からこみ上げて来る悦よろこばしさのためにさうなつたかの如く、思ひ切り伸び上るやうにして答へた。だが、それも向ふにはよく聞きとれなかつたらしい。房一は川向ふで手をふつた。下手の方を指さした。徳次には判らなかつた。房一は又自転車にのつた。
「あなたは、多分――」
「あいつらと来たら、すぐこれ!だからね」
「ほう、いつから」
房一が道平を送つて行くことになつた。
盛子は風呂場の入口で上はずつた声を出した。
「お松ですか?お松は半之丞の子を生んでから、……」
「笹井?――御隠居さんが云つたのかい」
一人だと何んて少ししか喰べないもんだらう、まるで小鳥の餌ほどだつたわ、と可笑をかしがりながら。――それに、後片づけだつてざぶざぶつと一二回やれば済んでしまふわ、と横目で膳の上を眺めながら。
それは一尺近い美事な鮒だつた。だが、三匹きりなかつた。いかにも少いと徳次は路々思つて来た。さう思ふと、この鮒が本当よりもずつとちつぽけにさへ見えて来たのである。
房一はその時逸いち早く、横に寝かされている男の投げ出した手首に血がかすりついているのを、そして寝ながら立てている片足のズボンの膝のあたりにもどす黒い斑点の沁みているのを見てとつた。
「まだ、まだ」